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Writer's pictureまやはるこ

真菰(まこも)の枕



ここのところ快眠の日々が続いている。

外出しても早く帰りたい衝動に駆られる。

思い起こせば、年が開けた2022年1月8日の夜からだ。


「お隣さんから素晴らしい鯛を戴いたのよ。一緒にいかがですか」

この日、私はYさんからの誘いにつられてやってきたのだった。


用意された土鍋のお湯は沸騰しはじめた。

「今の時期、野菜があまりないのよ。今日は大根葉にしたの。鯛をしゃぶしゃぶして、さあ、召し上がれ」

そう言って鍋の中の野菜を手早に動かすYさん。


無農薬の大根葉は、これまで食べたことのない爽やかな味だ。

いつの間にか、小豆が入った玄米ご飯に漬物とYさん手作りの味噌とゆべしが側に置いてくれていたのに、夢中になって気がつかなかった。

身体が元気になっていくのを感じながら、「食は愛」なのかもしれないと思った。



食後、Yさんが乾燥した真菰の葉をテーブルに置いた。

以前Yさんの友人が、稲で枕を作っていた時、「真菰の枕がほしいな」と呟いた私の言葉を思い出してくれたのかもしれない。


Yさん夫婦は、無農薬で米を作っている。真菰はマコモダケと言われ、イネ科の植物。

米と一緒に栽培できるらしく、この真菰もYさんの田んぼ出身のもの。初めて茎を食べた時は驚いた。食べられるなんて思いもしなかったから。

生でかじると癖のない淡白な味。サラダ、天ぷら、炒め物、炊き込みご飯にいたるまで、調理の幅は広い。 他にも知らなかったが、出雲大社では「マコモの神事」が行われ、神幸祭でも真菰は用いられているらしい。


数え歌を歌うように、ひと摑み、またひと摑み。枕のサイズに並べたら、麻紐を交互に回しながら縛っていく。

不揃い、不細工だけど、独特のいい香りの枕が完成した。


年が明けると、関西。特に神戸にいると、阪神淡路大震災の映像が嫌でも目に飛び込んでくる。27年が近づき、私の記憶もかなり薄れていると思っていた。

あの日、足元コンクリートの道路が生き物のように波打っていた。被災時に体験したその感覚が残っているせいなのだろうか。心がざわざわして眠りが浅かった。


ついつい長居し、帰宅した時はすっかり暗くなっていた。

真っ先に真菰を枕カバーに入れた。

頭をのせてみる。

柔らかい羽毛枕とは違ってゴツゴツした感触。草の匂いがした。

真菰の香りと呼吸が合わさっていく。この夜から、深い眠りにつけるようになった。



1月17日5時46分、6434名の命に「鎮魂と祈り」を捧げます。






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