4月に入ると、満開の桜をあちこちで目にするようになった。
「野草を摘みに来ませんか?」
電話はYさんからだった。
Yさんはご夫婦で、農薬を使わずに米と野菜を作っている。
「はい!喜んで!」
二つ返事で私は答えた。
連日のコロナ報道に耳を塞ぎたくなる環境の中にいると、車で向かう道路の両サイドから見える桜並木は爽やかそのもの。
野草に興味を持ったのは、Yさん夫婦と出会ったからだと思う。
普段スーパーで見る野菜はぴかぴか綺麗。いつまでたっても腐らない。どうなっているの?
いつしか産地がはっきりわかる道の駅のようなところで買うことが多くなっていた。
Yさんの畑に着いた。向こうの川縁にも満開の桜が見える。
野草って草? どんなのが食べられるの? これから食糧難って聞くし。 なんて質問ぜめをしている私。
田んぼや畑には普通農薬をかけると聞く。
おのずと野草にも飛ぶが、Yさんご夫婦の田んぼや畑には農薬は使っていない。
ご主人は、畑の畔に立ち足元にかがみこんだ。 「これはノビルですよ」と指さした。
そしてぐいっと引っこ抜いた。ニラの葉より細く、根っこはラッキョを小さくした感じだ。ラッキョのような根っこに小さなこぶがくっついている。
ヨモギの食べ方を聞いた。
「ヨモギはね、今が新芽の頃なの。ふかふかの柔らかいところを摘んで、天ぷらにしたり、乾燥してお茶にするのです」と、ゆっくり丁寧に答えてくれるご主人。
他にもカラスエンドウ、ツクシ。あちらこちらにいっぱい!農薬をかけていない畑は、キラッキラだ。よくみるとれんげの花もあちこちに。勝手に咲いているそうだ。
「お茶にしましょう。ツクシのお茶ですよ」と向こうからYさんの声が聞こえた。
畑のそばで簡易にしつらえたテーブルの上にアルミのやかんと湯呑みがおかれていた。
「いただきます!」と一口飲む。
ほろ苦い、ヨモギの苦さとは違う春の野草の味がした。
はあー、生きている。
大地に生かされている。有難いなあという思いがこみ上げてくる。
自然と共に生きているんだ。と実感した瞬間だった。
帰宅した翌日。教えてもらった通り、ノビルの先端を切った。
それからざくざく適当に切って、フライパンにゴマ油を入れ、ノビルを入れた。
塩を少々。しなっとしてきたら、お皿に盛り付けた。
手を合わせて「戴きます」と言いたくなる。
一口ほおばる。
こんなに美味しいものが、この世にあったのか!
職人が料理する和食もフランス料理も、どれもかなわない。
私が死ぬ時に何が食べたい?と聞かれたら、ノビルというだろう。
それくらい感動したのだった。
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